筋ジストロフィーとは?

概説

 筋ジストロフィーとは、筋肉自体に遺伝性の異常が存在し進行性に筋肉の破壊が生じる様々な疾患を総称しています。
デュシェンヌ(Duchenne)型筋ジストロフィー、ベッカー(Becker)型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕(けんこうじょうわん)型筋ジストロフィー、筋緊張型筋ジストロフィーなどに分類されます。
発症年齢、遺伝形式、進行速度、筋力低下の生じる部位などは各疾患によって異なります。
筋力低下や筋萎縮(いしゅく)が左右対称に生じ、皮膚の知覚がよく保たれる点で神経性の障害とは区別されます。

症状

・デュシェンヌ(Duchenne)型筋ジストロフィー(DMD)
小児の筋ジストロフィーの中で最も頻度が高く最も有名な疾患です。
3~6歳で発症し、比較的早く症状が進行します。発症率は年間10万人に13~33人、
あるいは男児生産3,300人に1人といわれています。X染色体によって遺伝する伴性劣性遺伝を示します。
約30%で家族歴が明らかでなく、突然変異が疑われる例も存在します。下肢近位筋群が最初に障害され、歩行障害が初発症状となります。
動揺性の不安定な歩行で、よく転倒するようになります。
下肢についで上肢近位筋群に障害がおよび、末期には全身に筋萎縮、筋力低下が生じます。構音障害、嚥下障害や呼吸筋麻痺も発生します。
病初期にふくらはぎに筋肥大が生じるのが特徴的です。この肥大した筋は硬くてゴムのような感触があります。
肥大しているにもかかわらず筋力はむしろ低下していることから、仮性肥大と呼ばれています。
またうつぶせの姿勢から立ち上がる時、手で下腿から上を順番に支えながら起き上がる独特な登攀(とうはん)性起立が認められます。
心筋も障害され、心電図で特徴的な所見を示します。軽度の精神発達遅滞は多くにみられますが、進行することはありません。
X染色体上での遺伝子異常のため、ジストロフィンというタンパクを作ることができないことが原因と考えられています。
DMDでは、ジストロフィンが欠損しています。

・ベッカー(Becker)型筋ジストロフィー(BMD)
DMDに類似していながら、発症年齢が遅く(5~45歳、平均12歳)、進行もゆっくりとしており良性の経過を示す筋ジストロフィーです。
DMDと同じく伴性劣性遺伝形式をとります。有病率は10万人に3~6人ぐらいです。心筋障害は少なく、精神発達遅滞も認められません。
DMDと異なってジストロフィンは存在しますが、その構造に異常が認められています。

・顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
顔面と肩周囲の筋が主に障害される筋ジストロフィーで、ゆっくりとした進行の経過をとります。DMDやBMDと異なり、常染色体優性遺伝形式を示します。
年間の発症率は10万人に5人ぐらいで比較的多い疾患です。発症は6~20歳で、手を挙げることが困難になるのが初発症状です。
両側の顔面筋の筋力低下が特徴的です。
眼輪筋、頬筋(きょうきん)や口輪筋は障害されますが、咬筋(こうきん)、外眼筋(がいがんきん)、咽頭筋(いんとうきん)や呼吸筋は保たれます。
DMDでみられる筋肉の仮性肥大はまれです。
周辺の筋萎縮のため肩甲骨が翼のように突出して、あたかも“天使の翼”のようにみえるという特徴が出現します。
腰部の筋肉は後年に障害され腰椎前弯(ようついぜんわん)が生じますが、歩行不能になることはほとんどありません。
心筋障害はまれで、精神発達遅滞も生じません。第4染色体上の遺伝子異常が原因と考えられていますが、特定の遺伝子はまだ見つかっていません。

・筋緊張型ジストロフィー
成人初期に手や前腕の筋萎縮で発症します。常染色体優性遺伝を示し、進行はゆるやかです。
眼瞼下垂(がんけんかすい)や顔面筋萎縮が先行して現れることもあります。
咬筋萎縮のため顔の下半分が細くなり下顎もやせて、この疾患に特徴的な顔貌(がんぼう)を呈します。
胸鎖乳突(きょうさにゅうとつ)筋の萎縮のため首の前弯が著しくなり、前脛骨筋萎縮により尖足(ぜんそく)が生じることがあります。
咽頭筋や喉頭筋の筋力低下のため、弱く単調な鼻声も特徴的です。食道、大腸、心臓や横隔膜の筋肉なども障害されることがあります。
ミオトニアという筋緊張異常が出現することが、本疾患に特異的で、手を強く握るとすぐに筋肉を弛緩(しかん)させて手を広げることができない、筋肉をたたくと筋の持続的な収縮が誘発されるなどの現象が現れます。
筋肉の障害以外に白内障、前頭部の脱毛、軽度の精神発達遅滞や性腺の萎縮など多彩な症状が出現します。
第19染色体上でCTGという3塩基の繰り返しが長いという遺伝子異常が発見されています。

検査

・血清クレアチンキナーゼ(creatine kinase)(CK)
血液検査で筋肉の破壊を示す血清CK値が上昇します。
DMDのように進行が速い疾患では上昇が著しく、逆に進行が遅く予後が良好な場合には上昇は
軽度にとどまります。

・筋電図
筋電図をとると筋肉の萎縮の原因が明らかになります。
神経障害で生じた筋萎縮では神経原性変化がみられますが、ジストロフィーのように筋肉に原因がある時には筋原性変化が観察されます。

・筋生検
筋肉の一部をとって病理組織像を観察します。筋線維の壊死(えし)、再生線維の出現、間質の線維化や脂肪浸潤などが認められます。
ジストロフィンを特異的に染色すると、DMDではジストロフィンが完全に欠如していることがわかります。

診断

 発症年齢、家族歴、性別、筋萎縮の分布、進行速度、血清CK値、合併症状などから臨床診断は容易です。さらに筋電図や筋生検の所見が役立ちます。診断が困難な例では、遺伝子診断も行われます。各疾患によって特有の遺伝子異常が発見されています。
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※上記内容はYahoo!ヘルスケアより抜粋